We Don’t Need Much

【注意書き】

・END1または2を迎えた後の2人
・たぶん半同棲してる
・本編ネタバレあり
・セクシャルな仄めかしあり
・設定ふんわり

 

We Don't Need Much

 

就寝前の準備をしながら、ふと思いついた疑問を彼女に投げかけた。

「島にいた頃、夢で逢えたらいいのに、ってよくメッセージをくれてたけど。
君は、夢の中の俺と何がしたかったんだ?」

「うん?色々だけど、一番は手に触れてみたかったな」

「手?」

髪の手入れを終えた彼女が振り返って告げたのは、意外な言葉だった。

「うん、面会でガラス越しに手のひら合わせてたけど、一度も触れた事がなかったから切なくて。
せめて夢で触れられたらなって思ってた」

「……他には?もっと、教えて?」

俺だって、君と似たような事は考えてて、結構その先も想像したり、何なら実際に夢に見たりしていたんだけど。
君も俺と同じくらいの熱量で、夢での逢瀬を望んでくれてたらと思う。

「そうだなあ、手を繋いで自由に2人で島内の公園や喫茶店も行きたかったし、あと図書館も」

「最後のは……行きたくないとは言わないけど、あまり心穏やかにいられなそうだな」

思わず眉根が寄る。
図書館の書籍には興味があるけど、あのアルバイトの男は頂けない。

「あはは、出た。門司くんコンプレックス」

「だって、仕方ないだろ。俺と違ってガラスの隔たりがなくて、唯一君と親密な男は彼だったんだから」

「門司くんはいい人だよ。でもチアキじゃない。わかるでしょ?」

「わかるけど、ちゃんと言ってくれないか」

「私が好きになったのは、チアキだよ。安心して」

「うん……」

ぎゅうと彼女の身体を抱き寄せた。柔らかくて温かい。
ヘアオイルを施されたらしい髪から甘い香りがする。
うなじ付近に鼻を寄せて、スンスンと香りを嗅いでいると「くすぐったい」と笑われた。

「どうしたの、チアキ。好きって言ってほしかった?
もう夢の話はいいの?」

彼女の甘やかで、少しからかう口調。

「それは常に言ってほしいけど、夢の話ももう少し聴きたい」

「そうだな、2人で農園で食材もらって島の食堂に行って、一緒に料理したりとか。
私の部屋でお茶して、ちょっと休憩って言ってお昼寝したりとか。
後は、島の外の夢だったら買い物したり、映画を見たり、遊園地行ったり。
そういう何でもない事がしたかったの」

「今は、島にはいないけどほとんど出来てるな」

「うん、そうだね。まとめると、あの頃の私、
チアキとありふれたカップルみたいな事がしたかったんだね」

「それで、そういう夢は見られたのか?」

「ううん、それが全然」

ふるふる、と彼女が首を横に振った。
サラサラの髪が揺れる。
その一房を取って口づけながら訊ねる。

「どうしてだろうな?君の俺への想いが足りなかった、とか?」

「もう、意地悪言わないで。多分だけど、まず2人で島を出ようって、無意識でもそればっかり考えてたから。
夢って、記憶と思考の整理でしょ。しかも、眠りが浅い時に見るものだし。
島にいた時は毎日散策してて、夜は熟睡だったから夢見るヒマがなかったんだよ、きっと」

「なるほどな」

「でも。良かったんだと思うよ、夢に見たいって思うほど憧れてた事が今は現実になったから」

彼女が、持ち上げた右手で俺の背中を優しく撫でてくれた。

「こうして触れるし、一緒に眠れるし、起きても一緒だし。現実だけど、今が夢みたい」

チュ、と軽いキスが唇に落とされる。
追いかけて深い口付けを仕掛けたのに、やんわり解かれた。

「明日早いから、ね?」

「……続きは夢で?」

「そう、だね。おやすみ、チアキ」

ちょっと耳を赤く染めた彼女から、今度は頬へのおやすみのキスが贈られた。
ベッドに入った彼女は、すでに眠る体勢だ。

(とてもじゃないけど、俺の側の話はできなかったな)

彼女が夢に現れた時、その潤んだ瞳に誘われて、さらに拒まれないのをいい事に……
それこそ夢みたいな時間を何度も過ごしてたなんて、ちょっと今日は言えなかった。
代わりに、今が夢みたいに幸せだと彼女が思ってくれてるのを知れたので、今日はよく眠れそうだ。