【注意書き】
・END1または2を迎えた後の2人
・たぶん半同棲してる
・色々ネタバレ有(テレフォンや差し入れ、エンドレスモードでのやりとり含む)
・セクシャルな仄めかし僅かに有
・設定ふんわり
「それ、俺も食べてみたい」
トーストの隣に置かれた、ケーキみたいにカットされ、たくさんの具材の入ったオムレツらしい料理。
ブランチで彼女の皿に乗ったそれに、目を奪われた。
卵の黄色と、おそらくほうれん草の緑、何かの野菜の赤という、
彩りの良さのせいかもしれない。
彼女が俺のために用意してくれた別メニューも、もちろん美味しそうだ。
サンドイッチの具材はツナと玉ねぎ、サラダチキンと野菜たっぷりの二種類で、
苦手な食べ物が多い俺に気遣ってくれたのが、すごく有り難い。
それはそれとして、今日は彼女が時々食べてる料理がどうしても気になった。
「これチーズ入ってるけど、チアキ平気?
卵も苦手だったよね」
うーん、とちょっと考え込むように首を傾げた彼女が問うてくる。
「たぶん大丈夫だよ。そのチーズは匂いがそんなにしないし、
卵は君がしっかり火を通してるのは知ってるから」
「わかった、じゃあ取り分けるね」
「ありがとう。これは、何が入ってるんだ?」
「ツナと、ほうれん草と玉ねぎとじゃがいもとチーズとパプリカ。
軽く塩胡椒で味付けしてるけど、好みでケチャップかけても美味しいよ」
「へえ、たくさん具材が入ってるんだな」
まずは、何もつけずに食べてみる。
「うん、うまいな」
ケチャップも合いそうだけど、このままの味が好きかもしれない。
野菜の旨味と甘さ、ツナとチーズの塩気のバランスがいい。
それに、じゃがいもの食感がどっしり感を出してて、食べごたえがある。
「そう?口にあったんならよかった」
「ほんとうまいよ、これ。オムレツ、だよな?」
「スパニッシュオムレツ。
タンパク質も野菜も手軽に一度に摂れるし、大好きなんだ」
「これ、また食べたいな」
「そう?うん、また作ったら一緒に食べよう」
にこにこと笑う彼女に見惚れる。
俺用に別メニューを用意してくれる細やかさとは別に、
合理的で洗い物が少なく済むメニューを好む、なんて豪気なところがある。
以前アクアパッツァとブルスケッタを振る舞ってくれた時、
今日と同じく一度でバランス良く栄養が摂れるのが好きだと言ってた。
華やかで豪華なオムレツと、サンドイッチを分け合って
ゆったりしたブランチを二人楽しんだ。
その夜の事。
「いい匂いがする。なあ、そっちも食べてみたい」
「ええっ、キノコとアサリ入ってるよ?!大丈夫?」
「たぶん平気だと思う」
料理好きな彼女は、夕飯も腕をふるってくれて。
俺用にはチキンと小松菜と玉ねぎのクリームパスタを作ってくれていた。
そして自分用にと、複数の種類のキノコとシーフードとのオイルパスタを用意してた。
たぶん香りの主な発生源はキノコなんだと思うけど、それとは別に香ばしい、いい匂いがするそのパスタに惹きつけられる。
「ほんとに?エリンギとしめじと舞茸って、キノコ3種類も入ってるけど」
「食べてみたい。この黒いのって?」
「黒っぽいのは塩昆布っていうのと、海苔の佃煮入れたから。
うーん、じゃあちょびっと食べてみて、ダメそうなら無理しないでね?」
「わかった、ありがとう」
小さめの皿に取り分けられたパスタを、フォークで絡め取る。
噛みごたえのあるキノコの歯ざわりが心地よく、やっぱり香りもいい。
シーフードミックスを使ったというから、アサリだけじゃなくエビもイカも入ってて、彼女の処理がいいのか食感はプリプリで食べ飽きない。
それに、あまり食べたことのない海苔のツクダニ?も何となくホッとする味だった。
彼女によれば、ちょっと醤油を垂らしたぐらいで、後は塩昆布で味がまとまるそうだ。
「ブランチのオムレツもだけど、これも美味いよ」
「ほんと?無理してない、よね」
「うん、このキノコは食べられるし、香りもいい。
シーフードも美味かった。
それに、なんだか落ち着く味だな」
「ありがとう。チアキの好みに合ったんなら嬉しいな」
結局、どちらのパスタも2人でシェアして食べる事になった。
2種類のパスタを彼女と一緒に楽しめて、贅沢なひとときだった。
俺は洗い物を済ませた後、食後のお茶をサーブした。
「チアキ、そのうち好き嫌いなくなりそうだね」
2人並んでお茶を飲みながら、彼女がふわりと微笑んだ。
俺の好きな、笑顔。
それを間近で眺められる日常を送れるなんて。
以前なら考えもつかなかった。
今はもう、手放せそうにない。
「ああ、そうかもしれないな。こんなふうになると思わなかった」
「前から、ときどき私の食べるもの見てたけど。
克服しようと思ってたの?」
「そんな事ないけど……俺、そんなに見てたかな?
君が美味しそうに食べてるし、
一緒に同じものを食べたいって思ったんだ」
「ふふ、いいね。
同じもの食べて、美味しいねって言い合えるの、最高だもんね」
「俺も、君がしてくれるみたいに、苦手な食材が入ってない料理を作ってあげたりしたかったけど。
君、好き嫌いほとんどないんだもんな」
「そうだね、有り難い事にほぼなんでも食べられるから」
「なあ、手間じゃないのか?
俺のために別メニュー用意するのって」
「ううん、全然。
好きな人が美味しく食べられるもの用意するの、楽しいよ」
何でもないようにサラリと言った彼女に、目を奪われた。
ぶわっと顔に熱が集まって、頬が紅潮していくのがわかる。
それを見られるのが恥ずかしいのと、こみ上げた愛しさに抗えなくて
座ったまま彼女を抱きしめた。
「チアキ?」
「君は……俺をどうしたいんだ?」
これ以上なんてないと思うのに、毎日、毎時間、何なら毎秒。
どんどん君を好きになる。
「えーとね。そうだな、誰よりも幸せにしたいよ」
ほら、また好きを更新していく。