Vampire

こちらの作品の続きです。

・島を出た後の二人(どのENDでもありません)
・チアキ視点
・主人公に特殊な独自設定あり
・捏 造 過 多
・細部はフワッとしてます
・END3のIFのようなイメージ、闇深めです
・キス止まりですがその手の描写はあります
・女性優位というか女攻めっぽい描写多めです
・色々特殊なので何でも読める方以外閲覧非推奨です

 

 

Vampire

彼女がピアスを開けた。
耳朶にじゃない。首筋だ。

「痛くないのか、それ」

「うーん、注射くらいの痛さかな。それより、洗濯バサミで皮膚固定される方が痛かったよ。まあこのくらいは平気」

もっと痛い事も経験がある、と言外に昏い眼が一瞬物語ったけど、それは見ないふりをした。

仕事じゃなく、ふらりと『外出してくる』と告げて帰ってきたと思ったら、彼女の首筋にピアスが鎮座していた。
今いる場所は日本の外のとある国で、彼女の友人の住まう地でもあるらしい。
その友人に頼んで開けてもらったのだという。

「そんな事、わざわざしなくても……」

「いいの、単なる趣味だもん。私の身体なんだから好きにするの」

にこりと俺に微笑んだ貌がとても魅力的で、それ以上何も言えなくなった。

「ああ、いいね。チアキ、いい表情してる。好きだよ」

いい表情ってなんだよ。
君が俺のものじゃないような気がして気が気じゃなくて、
それでいて笑顔に魅了されてやまないって、そんな情けない顔がいいのか。
でも、そんな戯れに向けられた言葉すら嬉しい。
というか、君から向けられるならどんなものでも嬉しいんだ。

柔らかく口づけられる。
彼女のキスは優しく、もどかしい。
いや、本当は翻弄するように俺を天国へ導くキスもそれ以上もできる彼女だ。
今は、いいように遊ばれてしまってるだけ。

「なぁ、もっと」

「えー、なぁに?ふふ」

焦れて強請った俺をスルーした彼女に、ぺろりと唇全体を舌でなぞられる。
それからまた、柔らかにバードキスだけ繰り返したと思ったら、蛇のような舌に絡め取られた。

(このまま、ひとつになってしまえばいいのに)

絡まる舌も、愛撫するように俺の指に絡んできた指先も、全てなにもかも。

あの日、彼女に連れられて日本を離れて、それ以来各地を転々としてる。
暮らす家や部屋は小綺麗で、いつでも空虚な佇まいをしていて、そして俺達だけの空間だった。

『チアキのしたいようにしていいよ?どんな手を使っても護るから』

2人で転々と暮らしていく事ができる程度に、彼女は金銭的には困らないという。
加えて、もし俺が外で働きたいなら自由にしていいと言われた。
だけど、俺は首を横に振った。

『いや……外ではやめておくよ』

『そう?わかった。ああ、ネット経由でお仕事するなら都度名義とかは変えてね』

どんな手を使っても、と告げた時の彼女の眼の強さに気圧された。
彼女は俺以外の命を散らす事には全く躊躇いがない、と言っていたから。
それに、自由にしていいという言葉がひどく怖くて、俺は彼女の用意する住まいに篭る事を選んだ。
時折、彼女の言いつけを守った形で小金を稼ぎながら、家で彼女を待つ暮らし。

(壊れてしまいそうだ)

彼女が外で”仕事”をしている期間は、当然一人で過ごす事になる。
誰もいない部屋で彼女を待つだけの時間は、数時間の時も数日の時もあった。
戻ってきた彼女は俺を抱きしめてくれる。抱いてくれる。
だけど。本当は常に彼女に愛されていたい。

(そんな事、もう望めないかもしれない)

でも、もうそれでもよかった。
少なくとも、今は一人じゃない。彼女がいる。
これは愛情というより、依存なのかもしれない。
彼女以外何もいらないという、強欲で貪婪で強固な。

「ん、いた」

「あ、ごめん」

無意識に、首筋のピアスに爪を立てていたらしい。
それをきっかけに、唇が離れた。

「どうしたのチアキ、気に入らない?」

「いや、違うんだ」

「いいんだけどね、安定させるより排除痕が欲しいし」

ピアスが固定されず、腫れたりトラブルを繰り返して痕になったものを排除痕というそうだ。
彼女はそれが欲しいという。

「……やっぱり、気に入らないかも」

「ふふ、素直。チアキも欲しいの?ここに」

かぷり、と左の首筋に柔く柔く歯が立てられた。
ゾクリとする。
本能的な恐怖ではなく、彼女に痕を残してもらえる事に歓喜して、だ。

「ああ、もっと噛んで」

「やらしい、チアキ」

ぐっと歯が立てられ、強く吸い上げられた。
きっと数日か一週間程度は、歯型と鬱血痕が残るだろう。
それでいい。
もう、君に縋り付いてるのでも依存でも、どうでもいい。
何も望まないから、君の痕が欲しい。

「もっと。もっと吸って」

じゅ、とキツく吸い付かれた。
口を離した彼女が、悪戯を成功させた子供のように笑み崩れた。

「痕ついちゃった。首の開いた服、しばらく着られないね」

「いいよ、君以外に見せないし」

「それもそうだね。……もっと?」

最初の印象なんて、なにも当てにならない。
頼りないと、どこか幼いと感じてた俺の眼は節穴もいいところだ。
君がこんな妖艶な声音と目線で男を誘う女性だなんて、気づけもしなかった。

「ああ、こんなのじゃ終われない」

今度は噛み付くように口づけられた。
緩慢に彼女によって緩められる着衣がもどかしく、乱暴に自分から脱ぎ捨てていく。

(もっと、魂ごと奪ってくれ)

俺はとっくに、君に堕ちてる。
首筋のピアスは、どうしようもなく似合うと思う。
俺だけの君に。