sleepy

【注意書き】

・END1または2を迎えた後の2人
・たぶん半同棲してる
・色々ネタバレ有(テレフォンや差し入れ、エンドレスモードでのやりとり含む)
・セクシャルな仄めかし僅かに有
・設定ふんわり

 

sleepy

 

結構有名所のはずだけど、記憶にあるキービジュアルとは違う気がする。
彼女から手渡されたディスクのパッケージを眺めて、思案する。

「これね、映画の方じゃなくて、その後作られたドラマ版なの」

俺の疑問に答えるように彼女が言った。

「なるほど、俳優が違うんだな」

「そうだね、キャストも違うし雰囲気も結構違うよ。
私はこっちの方が好き」

そう笑う彼女はパジャマを着て、ベッドの掛布の下に身体を潜り込ませてる。
彼女曰く、【観ながら寝落ちできるホラー】らしい。

どうしてホラーなのかと言えば、彼女が友人知人から【ホラーマニア】と他称されるぐらいにホラー作品が好きだからに他ならない。

『マニアって言われるほどかわからないけど、有名所もB級も問わずに3桁は観てるかな』
なんて言ってたけど、それは充分にマニアと言われていいと思う。


「前に映画観ながら寝ちゃったの、ちょっと気にしてるでしょ」

「うーん……それは、まぁ」

彼女の指摘通り、以前家デートに誘った時に映画を観ながら熟睡してしまい、
挙げ句軽い喧嘩にまで発展したのは失態だったと思ってる。

「これ、ストーリーもいいし普通に観るのもおすすめなんだけど。
こうやって、ベッドの中で寝落ち前提で観るのもいいよ」

彼女の寝室には、通販サイトのセールで買ったという小さめなプロジェクターがある。
電気を消して、ベッドの向かい側の壁に投影して映画鑑賞するスタイルがお気に入りらしい。

「私も寝ちゃうかもしれないし、チアキも眠くなったら寝ちゃって大丈夫。
明日起きたら一緒に続き観よう?」

「それは、いいけど。君、これ前にも観てるんじゃないのか?」

「観てるけど、私同じ作品何回でも観るタイプだからいいの」

促されて、ディスクを機器にセットしてからベッドにいる彼女の隣に潜り込む。
隣からほのかに伝播してくる温かさが心地いい。
彼女がリモコンを操作して、映画を再生した。

――それから、1時間が経過するかしないかのうちに、彼女は意識を手放した。

隣で船をこぎ始めた彼女の頭を抱えて、俺にもたれさせてからは早かったと思う。
座った姿勢を維持できなくなって、枕に頭を移した彼女からすぅすぅと寝息が聞こえるまで、ほんの数分だった。

春先とはいえ、まだ夜は冷える。
彼女の肩口まで掛布を引き上げて、俺は映画の続きを鑑賞する事にした。

主要な登場人物の1人は一見穏やかだけど精神的にアンバランスなようで、
端々に緊迫したような雰囲気がある。
ホラーらしい音響も使用されていて、ところどころドキリとするけど、彼女がそれらで目を覚ます気配はない。

「ん……」

わずかに身じろぎした彼女が、俺に身体を擦り寄せた。

「!」

体温の高い俺に暖を求めてなのか、するりと俺の腰に彼女の腕が回る。
柔らかい感触に、ひどく動揺した。
一瞬起きてるのかと思ったけど、規則正しい寝息がその思考を否定してくる。

(これは……ちょっとまずいな)

ちょうど、俺の腹斜筋あたりに彼女の手が置かれてるんだけど、
これがくすぐったいというか……性感を引き出されそうで困る感触だ。

思い悩んだ挙げ句、彼女の手を取ってそっと繋ぐ。
そうしたら、今度は細い指が俺の指に絡むようにするりと握り返された。
外出時や、ソファで隣に座る時の繋ぎ方と同じ。
だから、無意識に彼女はそれをトレースしてるんだろうけど。
チラリと様子を伺えば、やっぱり彼女は熟睡してる。

(これはこれで、いいけど困る)

意識がなくても、俺の手を求めてくれてるみたいで、ドキドキする。

その頃、壁に投影された物語は、山場の1つを迎えていた。
束の間の平穏を切り取ったかと思えば、予想外の事態が起きるぞっとするようなシーン。
やがて、ディスクを入れ替えるように画面に指示が出たが、ベッドを離れると彼女が目を覚ますかもしれないと思って躊躇した。

(君も俺が眠ってしまった時、こんなふうだったのかな)

きっと彼女の事だから、俺を起こさないように気を使いながら
1人で続きを鑑賞していたんじゃないかと思う。

この作品は、彼女が勧めるだけあって良い。
ストーリー性があり、ホラーの側面もあるがヒューマンドラマ寄りな気もする。
続きは当然気になるんだけど、彼女を起こしたくないし、何より隣の温かさを抱きしめて眠りたい気持ちも大きくなってきた。

少し迷ったのち、俺はリモコンでプロジェクターと再生機器の電源を落とした。
照明は消してあったから、部屋にはとたんに闇が満ちる。
目が慣れた頃を見計らって彼女を引き寄せて、腕の中に抱き込んだ。

(続きは、起きてる君と楽しもう)

そう思いながら、穏やかな眠りに身を預けた。