So kiss this one more time

【注意書き】

・END1または2を迎えた後の2人
・たぶん半同棲してる
・本編ネタバレあり
・セクシャルな描写あり
・女攻め描写少しあり
・設定ふんわり

 

So kiss this one more time

 

「ねえチアキ、私もう帰るんだけど」

「ああ、わかってるよ。明日、君は仕事だもんな?」

「そう。だからね、チアキにそうやってドアの前に立たれてたら、帰れないんだってば……。もう、困ったなあ」

呆れと当惑が入り混じった双眸が、俺をちらりと一瞥した。
島で過ごしていた日々、かなり最初の方から彼女のその瞳が好きだったと思う。
まっすぐに俺を映す煌めきが眩しくて、何よりも綺麗だ。

さて、今の状況を整理しよう。
週末から彼女が泊まって、現在は日曜の午後。
明日も仕事の彼女は、そろそろ自宅に帰らなきゃいけないのはわかってる。
金曜の終業後から日曜の今まで恋人を独占したんだから、大人ならそろそろ満足して然るべきなのはわかる。

だけど、嫌だ。帰したくない。

「困ってる君に、朗報があるよ」

「ん、なに?」

「今からここは、”キスしないと出られない部屋”になった。逆に言えば、キスすれば出られるよ」

「へえ、そうなんだ?知らなかった」

我ながら、突拍子もない事を言ってしまったのがおかしくて、ちょっと笑ってしまった。

ところが、彼女はそれに乗ってきた。
チュ、となんのためらいもなく俺の唇にキスをくれた。

「これで、出られるの?」

「いや、条件がある。数え切れないほどの、俺を満足させてくれるキスをしないと出られない」

「もー、そんな事だと思った……」

くすくすと笑いながら、彼女の腕が俺の首に巻き付いた。
唇に、バードキス。頬に、額にちゅ、ちゅと軽いキスがたくさん。
首筋、耳、鎖骨、瞼。
縦横無尽に、彼女からのキスが降り注ぐ。

でも、まだ足りない。全然、足りない。

「なあ、もっと。もっと、して?」

「欲張りさんだね、チアキ」

「ああ、君に対しては……んっ」

水音を立てて、不意に唇を深く奪われた。
舌を絡め取られて扱くように吸い上げられ、彼女のぬるぬると温かく濡れた舌に頬裏や歯列をなぞるように舐められる。
夢中で、流れ込んできた彼女の蜜を飲み下しながらこちらからも舌を絡める。
たまらなくなって、彼女の腰を手繰り寄せ、より密着できるようにぎゅうと抱きしめる。
不埒に腰から太腿の裏に這わせた俺の左手は彼女によって剥がされ、手首を掴んで玄関のドアに縫い留められた。

(こうしてると、彼女から襲われてるみたいだな)

……そう思うと、ひどく興奮する。

俺は彼女に対する独占欲や支配欲のような感情も強く持ってるけど、同じ欲を彼女にも持っていて欲しくもある。
だから彼女から求められたいし、奪われるように愛されたいと希ってしまう。

抱き合い、俺に深く甘いキスを与えながら、時折彼女は唇を離してクールダウンの時間を取る。
ほんの数秒離れるその時間が、不満だ。
それに。

「なぁ、なん、で」

「んー?ふふ……」

キスの合間に問い質したら、はぐらかされた。
案の定、俺の一番好きな所への刺激はわざと遠ざけられてるみたいだ。
あの甘い舌先で口蓋を舐めてほしいのに、与えられない。
必死で絡めた舌は、なだめるように甘噛みされてる。


ちゅ、チュク、じゅるるっ。

ピチャ、ぢゅうっ、チュ、チュッ。


玄関で反響する、いやらしい水音が交錯して耳を犯す。
性感を刺激して余りある官能的なキスに、気づけば溺れてる。
もう、余裕も虚勢を張る矜持も不要なものとしてかなぐり捨てた。

「ハァッ、なぁ……あれ、して?」

「でも、まだしてない、でしょ」

息継ぎと共に懇願すれば、彼女から謎掛けのような答えが返ってくる。

「なに、を……?」

「数え切れないほどのキス。まだ、してない」

ああ、君はひどい人だ。
やさしく淫らに焦らして、濡らして。
俺が堪えきれなくなってから、ご褒美をくれる、そんなつもりだったんだな。

「も、いいから……っ!」

「ん、そう……?じゃあ、」

ちゅ、とあやすように柔く唇を吸われた後、ちゅるんと彼女の舌が上顎へ滑っていって、待ち望んだ刺激を与えられた。
チロリチロリと嫐るように口蓋を彼女の舌に舐められて、思い切り腰にキた。

「ん、んんぅっ!」

「ふー……、ちょっと、休憩ね」

ちゅぷ、と唇が外されてキスが解かれた。
彼女の右親指が、唾液でべとべとになった俺の唇をそっと拭ってくれた。
彼女自身は、濡れた唇を舌でぺろりと舐め上げてる。
俺を捕食する、しなやかな獣みたいだ。

「それで」

「うん……?」

彼女の瞳の中の俺は、ややだらしなく、とろりと蕩けた顔を晒してる。

「私は、部屋から出られそう?」

ああ、そういう話だったよな。
名残惜しい……。

そろそろ、本当に帰してあげなきゃいけないのはわかってる。
でも叶うなら、このキスの続きとその先まで、彼女と味わいたい。

「ああ、もう出られるよ……ほら」

数秒の葛藤と逡巡の末。
仕方なく、俺はそっと玄関のドアの前から身体を退かした。

ああ、なんだか全身が気だるい。
否、正確に言えば腰から下にかけて甘ったるい倦怠感が纏い付いて、欲を持て余してる。

それに、彼女が帰宅してしまうと思うとどうしようもない寂莫を感じてしまい、やるせない。
ぽっかりと、彼女の形に心に穴が空いたような、そんな気分だ。

「ありがとう。……チアキも、来る?
私の ”お泊りしないと帰れない部屋”」

艶然と微笑んだ彼女が問う。
俺とのキスで、腫れぼったくなった唇が眩しい。
ちょっと遅れて彼女からの言葉の意味を理解した俺の気分は、一気に浮上した。

「ああ……行くよ。でも、その前に」

もう一度、君とキスがしたい。

迎えるように薄く開いた彼女の唇に、我慢できずに荒っぽく喰らいついた。