overdoing

【注意書き】

・END1または2を迎えた後の2人
・たぶん半同棲してる
・本編ネタバレあり
・設定ふんわり

 

overdoing

 

あんな事、言うんじゃなかった。

『ここのところ、君の家に入り浸りすぎたみたいだ。
一週間くらい、来るのは控えるよ。マンネリっていうのの予防にさ』

『そう?わかった』

本心はそんな事したくなくて、いつも通り彼女と一緒に過ごしたかった。
あれは、思いつきで、完全に勢いで提案した事だった。
何ならちょっと「嫌だよ、そんなの!」とか、彼女からゴネられないかって期待してた。
そんな期待も虚しく、あっさり彼女に承諾されてしまい今に至る。

俺が益体もない提案をしたのが金曜、土曜を過ぎて今は日曜の午後だ。
まだ3日も経ってない。たかが2日、されど2日だ。

淡々と時間は流れて行き、惰性で仕事や家事はこなしたけど、1人で過ごす何もかもが味気ない。
付き合い出してからのこの数ヶ月は本当に、ほぼ毎日のように彼女の家で過ごしていた。
俺の家に彼女が来る事ももちろんあったし、仕事の都合で外デートをして夜には解散、
って日も片手で数えるぐらいにはあったと思う。

もう一緒に住んでいいんじゃないかって俺は思ってるけど、恋人になってからは半年と少し。
彼女には、気が早いと思われてしまいそうだ。
お互いの部屋にそれぞれの私物や服がちょっとずつ増えていく、くすぐったい感じをまだ楽しみたい気持ちもある。

ずっとべったり一緒にいたのに、俺があんな提案をしたのは理由がある。
少し前にweb会議のついでの雑談で、仕事の同僚が言ってた事がどうしても気になってしまったからだ。

『そうなんだ。オレと彼女は、ちょうどいい距離感だよ。
休日でも会わない時もあるし、そういう時はお互い好きな事して過ごしてる。
ずっと一緒にいすぎて相手に気疲れさせたり、関係がマンネリ化したら嫌だなって思うとね』

いつだか、恋人同伴で俺を食事に誘ってくれた彼に彼女との近況を話したら、返ってきた答えがこれだった。
もちろん彼には悪気なんてなく、ごく一般的な意見と、自身の恋人との関係性を話してくれただけの事。
情緒的に成熟してる彼からの言葉に、勝手に泡食ったのは俺だ。

(嫌だ。彼女に飽きられるのも、べったりしすぎて疲れられるのも本意じゃない)

そう思って、突発的にした提案だった。
今思えば、望んでない心にもない提案で、ほんと失策としか言いようがない。

(だけど、もう堪えられない)

彼女不足で、もう限界だった。
もう1分だって嫌だ。1秒だって長い。

自分から言い出したのに、3日も持たずに彼女の家へ向かう。
息せき切ってチャイムを押したが、果たして彼女は不在だった。
合鍵を使って、勝手知ったる彼女の家へ上がる事にする。

もらってはいたけど、使うのはほぼ初めてな合鍵。
初めての、家主不在の家への訪問。
この家での1人きりの時間なんて、経験した事がない。

(初めてな事ばかりで、どうしたらいいかわからないな……)

何となくおっかなびっくり、リビングの床に膝を抱えて座り込んだ。
彼女のいないソファに腰掛けるのは、なんだか違う気がして。

日曜の午後なのに、不在にしてるのは珍しい。
彼女は次の日が仕事だからと、出かけずにいるのが常なのに。

(どこに行ったんだろう。今誰といるんだろう)

メッセージアプリで訊けばいいのに、『今、どこにいる?』のその一言が訊けない。

カチャリ。カチャ、ガチャ。

解錠される音と共に、彼女が帰宅した。
キャリーケースを引いて。

「ん、チアキ来てたんだ?いらっしゃい」

「おか、えり」

「うん、ただいま!ちょっと遠出してきちゃった。お土産買ってきたからねー」

彼女はあの後すぐチケットを取り、翌日には新幹線に乗って目的のテーマパークに行ったのだと言う。
いそいそとキャリーケースを片付けて、楽しげに土産物を取り出してる。

「今週はチアキいないんだー、って思ったら”じゃあ1人で行けるとこまで行ってみよう!”って
思いついてね。弾丸だったけど、めちゃくちゃ楽しかったよー!」

「……それは、よかったな」

テンション高くいきいきと上機嫌な彼女に反して、ごく低いテンションでぐったりした声の俺の返答に、彼女が首を傾げた。

「チアキ、なんか元気ない?」

「そりゃあ、この2日間君に会えなかったから……って、俺から言い出したんだけど」

「そうだねえ。マンネリ予防?だっけ、効果ありそう?」

「いや……それ以前に何日も何日も君に会えないの、俺は無理だ」

ふるふると、首を振った俺の頬を彼女の指がそっと撫でてくれた。

「そっか。1人で、つまらなかった?」

「つまらないも何も、息ができなくなりそうだった。ごめん!変な提案して」

「いいよ、私もチアキがいなくてさみしかったから、今日会えて嬉しさ倍増したし。
それに楽しい事もしてきたし、悪い事ばっかりじゃないよ」

「その、1人で行ったのか?テーマパーク」

「うん、前に友達とも行った事あるけど、今回は1人。
アトラクションも入れ替わってたし、次にチアキと行く時の下見も兼ねてね」

「え」

「チアキとだったらどう回ろうとか、何から乗ろうかとか考えながら回ってたから、ワクワクして楽しかったんだよ」

こういうところ。
あっという間にどん底から俺を引っ張り出してくれる、光の梯子のようなところ。
俺は絶対、彼女にはかなわないと思った。

マンネリ予防には、外デートと家デートの頻度を調節して、メリハリをつける事で解決しようって事になった。

「たまには遠出もしよう?今回行ったテーマパーク、休みとって一緒に泊りがけで行こうよ」

「ああ、来月にでも行こう」

「やったぁ、楽しみ!」

眼をキラキラさせて言う彼女が眩しくて、ドキドキした。
恋をしたのが彼女で、不器用な俺に付き合ってくれるのが彼女で本当によかった。

飄々としてて、次の行動が全然読めない君と、
思い詰めると妙な事をしでかしてしまう俺。

こんな俺達はマンネリ化なんか、未だ知らない。