HAPPY BIRTHDAY

【注意書き】

・END1または2を迎えた後の2人
・たぶん半同棲してる
・本編ネタバレあり
・セクシャルな描写あり
・やや女攻め(女性優位)っぽい描写少しあり

 

HAPPY BIRTHDAY

 

「ねえ、今日はチアキのものを買いに来たんでしょ?」

彼女の好みのコーナーに足を向けかけて、腕を引かれて止められた。

「あ、そうだったな」

今日は俺の誕生日で、出かける前に彼女から欲しい物を訊かれた。

『今日一日、君に俺のお願いを何でも叶えて欲しい』

『それはそれで善処するから、ちゃんとほしいもの教えて?』

手料理とか膝枕とか色々言った気がするが、彼女はそれらを諾として、こう言った。

『あのね、それはそれで全然構わないよ。私が訊きたいのは、プレゼントとしてほしいものの事』

『ああ、わかったよ。それなら、君と本屋に行きたいんだ』

かくして俺の願いは聞き届けられて、今2人で書店に来てる。

「音楽雑誌とかゲームの情報誌とか、それは私が自分でほしい時に買うからいいの」

ぐいぐいと腕を引かれて、さっきまでいたコーナーから離される。

「さあ、チアキの好きな本のところに行こ?」

「そうだな、洋書と和書で2~3冊欲しいのがあるんだ」

「オッケー、行こう」

店内を回り、俺の欲しい数冊は難なく集まった。

「お会計は私ね」

さっと数冊の本を取り上げると、彼女はレジに向かってしまう。
あ、一応贈り物の包装をかけるよう頼んでくれたみたいだ。

「私が運ぶから!」

結構な重さがあるのに、そう言ってきかない彼女に押され、荷物を任せる格好になった。

「チアキが持つのはこっち」

彼女から差し出された左手を握って、帰路についた。
歩きながら、彼女が俺に問いかける。

「それで?一緒に書店には行ったでしょ。手料理は用意してあるでしょ。
膝枕は出てくる前にしたし。あとは、したい事ってある?」

「キスとハグ。君からして?」

「帰って、手洗いとうがい済ませてからね」

「あとは、君の作ったケーキ。一緒にデコレーションしたい」

白いクリームの塗られた丸いケーキが冷蔵庫に鎮座してたのを俺は目敏く見つけてた。
なんで装飾がないのかを訊ねたら、型崩れを防ぐために食べる直前にデコレーションする気だったと言う。

「いいけど、ずいぶん可愛いリクエストだね」

「可愛いって……、やった事がなかったから、やってみたいんだ」

「うん、いいよフルーツもそれ以外も一通り用意してあるから」

話してるうちに、家に着いた。
約束通り、手洗いとうがいを済ませた彼女からのキスとハグは抜かり無くしてもらう事にする。
抱きついて俺を見上げる彼女に愛しさがこみ上げて、抱き返して俺から何度もキスしてしまった。

「ちょっ、今チアキのターンじゃないでしょ……んん」

「いいだろ、少しくらい」

チュ、とリップ音を立てて唇が離れた。

「少しにしては長いよ、ちゃんと、キスさせて?」

たしなめられて、彼女からのキスを受け止める。

啄むようなバードキス。
唇の中心、上唇のてっぺん、両方の口の端。
くすぐったくなってきたところで、両頬へキスを落とされる。
それから両瞼、首筋、顎先にまで唇が落とされて。
最後に唇に、ちょっと大人のキスを贈られる。
これ以上していたら、その先を求めてしまいそうになる絶妙なタイミングで彼女からのキスは終りを迎えた。

「おしまい。はい、これ」

さっきまでの雰囲気がうそのようにさっぱりした表情の彼女に、書店で購入した品々を渡された。

「ありがとう。これは?」

包装された本の上に、見慣れぬ小さな包みを見つけた。
これも綺麗にラッピングが施されている事から、彼女からのプレゼントらしい。
いや、むしろこのプレゼントが本命な気がする。

「開けてみて?」

彼女の、いたずらっぽい笑顔。
こういう時の彼女には期待していいはず。

心は逸って、でも乱暴に破かないようにそわそわとラッピングを外して、出てきたのは。
レザー製の、名前の刻印された栞だった。何かのマークも刻印されてる。

「それね、名前の刻印と、その人が生まれた夜の月の形の刻印できるの。
どうかな……?」

「ありがとう。これ、世界で俺だけのための、栞?」

「うん。人気あるみたいだから早めに頼んでおいたの」

ふふ、とサプライズが成功した事に喜ぶ彼女が密やかに笑いを零した。

「じゃあ、ケーキ出してデコっちゃう?それとも、ごはん食べた後がいいかな?」

くるりと踵を返して、キッチンに向かいかけた彼女を背後から抱き留めた。

「チアキ?」

「君は、すごいよ」

仕込みの様子から、この後の食事もきっと俺の好きな料理ばかり出してくれるんだろう。
俺の「今日一日、俺のお願いを何でも叶えてほしい」なんて無茶振りに、丁寧に且つ期待以上に答えてくれる人なんて、君以外いない。

子供の頃以来、きちんと祝ってこれなかった分まで満たされる勢いで、過去が彼女に染め替えられてく。
ドキドキして、胸がきゅうとなって、その事がものすごく嬉しい。

「ふふ。お誕生日おめでとう、チアキ」

肩越しに振り返った彼女が、俺の唇にふんわりとキスを贈ってくれた。
そのまま深くなっていく口づけに身を任せて、腕の中の彼女を反転させて抱き締めた。
抗われる事はなく、抱き返され彼女は俺の全てを受け入れてくれる。

(ケーキのデコレーションと食事は……後だな)

ぼんやりと頭の隅でそんな事を思ったけど、暴かれていく彼女の肌の白さに思考は霧散していく。
彼女の事で、頭も心もいっぱいになっていく。
今日はずっと満たされた気分で一日が過ごせそうで、思わず俺は口角を上げた。