【注意書き】
・END1または2を迎えた後の2人
・たぶん半同棲してる
:本編ネタバレあり
・セクシャルな仄めかしあり
・設定ふんわり
部屋を訪れてから感じてた、かすかな香り。
ソファで隣に座って、その甘い香りの源が彼女だと気づいた。
「君、お菓子作ってた?美味しそうな匂いがする」
「ううん、今日は作ってないよ。香水かな」
「香水?」
「そう、友達と出かけた時に買ったんだ」
確か、ちょっと前の休日に彼女の帰りが遅かった時があった。
そういえば、友達と会ってきたって言ってたっけ。
立ち上がった彼女が、寝室から小さなボトルを持ってきて見せてくれた。
「店頭で試した時は好きな感じだったんだけど、肌に乗せたら違うなあ」
「そう?」
俺はいい香りだと感じているけど、彼女は違うらしい。
見せてもらったボトルには、何やら色々と香りの成分が書かれてる。
「うん、私には甘すぎていまいちかな。
朝つけて何時間も経つのに、あんまり匂い薄まってないし」
「バニラ……いや、キャラメル、かな?」
「ひゃっ、首筋嗅がないで!くすぐったいからっ」
スン、と彼女の首筋に顔を埋めて匂いを確認しただけなのに、すごい勢いで逃げられた。
ちょっと拗ねそうだ。
じと、と彼女を睨んで恨み節に呟く。
「そんなに逃げなくてもいいだろ……」
「くすぐったかったの!うーん、いっそほんとにお菓子作ろうかな」
「急だな、どうしてまた」
「バニラエッセンスの匂いで上書きしよっかなって。
パウンドケーキ焼くけど、ドライフルーツとバナナ、チアキはどっちがいい?」
「そうだな……ドライフルーツかな」
「わかった、準備するね!」
そんなやりとりの後、小一時間してパウンドケーキが焼き上がった。
バニラとバターの香りがあたりに充満して、確かに彼女の香水の匂いは紛れてわからなくなった。
その後は焼き立てのパウンドケーキをひとかけずつ味見したり、残りは冷ましておく事にして2人でランチの準備をしたり、何だかんだで香水の件は忘れ去られた。
また別の日、また彼女から香りがした。
隣に座った時はわからなくて、お茶を淹れ直すのに席を立った時にふんわりと香った。
ただ、香水や柔軟剤みたいにわかりやすいものじゃなくて、彼女自身の肌の匂いが少し強まったような。
「君、なにかつけてる?」
「すごいねチアキ、わかるんだ。そう、前とは別の香水つけてるよ。
これは、自分の肌の匂いがするんだって」
そう言った彼女はタタッと寝室に駆け込んだと思ったら、かなり小ぶりなボトルを見せてくれた。
フルボトルだとそこそこ値が張るので、ネットで量り売りをするサイトからお試し購入したらしい。
首筋を嗅ごうとしたら、そっと首をそらした彼女に躱された。
「今日は首筋じゃないとこにつけてますー」
いたずらっぽく、ニコッと笑われた。
弱ったな、文句を言おうにも笑顔が眩しくて言えなくなった。
「どこにつけてるんだ?」
「んーと、肘の内側。ほとんど服の中なのに、チアキよく気がついたね」
「君の肌の匂い、好きだからな」
「……!こ、コメントしづらいよ」
照れ隠しで、目を逸らされた。
赤く染まった耳朶がかわいくて、チュッとキスを落とした。
「ち、チアキ!」
「君がかわいいのがいけない」
お咎めを受けないうちに、座らせた彼女の肩を抱いて引き寄せた。
「うん、君の匂いがする。この前のはいまいちって言ってたけど、今日の香水は気に入ったのか?」
「うーん、今日のはね。自分がどんな香水が似合うか知りたくてつけてみたんだ」
「香水もいいけど。俺は、普段の君の肌の匂いが好きだな。あと、君の作るお菓子の香りも」
「……そうやって無意識に口説くの、私だけにしてね」
君にしかこんな事言わない、と言いかけたセリフは彼女からのキスにかき消された。