Deep and abiding

【注意書き】

・END1または2を迎えた後の2人
・たぶん半同棲してる
・本編ネタバレあり
・かっこいいチアキは不在です(涙腺緩めなチアキはいます

 

Deep and abiding

 

「そうだなあ、ミートローフでしょ、ミルフィーユ鍋でしょ、
チキンのクリームシチューでしょ、エビグラタンも好きだな」

「ビーフシチューもだろ?」

彼女の好きな料理を訊ねてる最中。
一緒に食事に行った時、オーダーした事がある料理を言ってみた。

「うん、そうね。でもチアキ、無理しなくて良いんだよ?」

「君の好物を作れるようになりたいんだ」

そう言った俺は、鶏肉以外の肉を食べるのは苦手だ。
ほぼ口にしないから、処理や扱い方もあまりよくわかってない。
その辺りは調べたり、練習あるのみだと思ってるけど。
そんな俺に気遣ってくれる彼女の声はどこまでも優しい。

「気持ちは嬉しいんだけど、私だけ食べられるメニューって、チアキしんどいでしょ。
別々のものを作るのもあれだし。チアキの得意な料理、私好きだよ?」

「そう言うけど、君は俺にしてくれてるじゃないか」

「あー、あれは私が食べたいから別メニュー用意してただけ。
そんなに手間も掛からなかったし」

そういう今だって、彼女が飲んでるのは紅茶で、俺のはカフェオレで、どちらも彼女が用意したものだ。
本人曰く『きょうだいの一番上だからかな』だそうだけど、誰かといると自然と世話を焼きがちというか。
彼女には、さりげなく他者の事を気遣うスキルがある。

「だったら俺だって同じようにしたいよ」

「んー、チアキがそうしたいなら任せるけど。ずいぶん、こだわるね」

彼女は、どれだけの事をしてくれてるか自覚がないらしい。

「君にしてもらってきた事、全部かけがえのないギフトだと思ってる。
だから俺も、ちゃんと君に報いたいんだ」

とても返しきれないほどのものを、もらってきてるけど。
それでも、少しずつでも良いから君にも俺から与えたい。
そう願ってやまないなんて、きっと知らないんだろうな。

「ギフトって言われるほどの事じゃない気がするけど……
あのね、私だってチアキからもらってるよ?」

「え?」

「どんなにチアキが大切にしてくれてるか、優しくしてくれてるか、愛してくれてるか。
私、ちゃんとわかってるよ」

「君は……君、ってひと、は」

視界がにじんで、ぼやけた。
乱暴に目元をグイと拭ったら、彼女が俺の手を退けて、指先で涙を優しく払ってくれた。

「こすっちゃダメ、赤くなっちゃうよ」

「ごめ、こんな、俺」

「いいよ」

斜向いに座っていた彼女が立ち上がり傍らにやってきて、そっと抱き締められた。
しゃくり上げる俺の背を、彼女はいつまでも撫でてくれた。


涙が乾いて落ち着いた頃、俺は改めて口を開いた。

「……ちゃんと、色々と君に伝わってるのはわかったけど。
それはそれとして、君の好きな料理はマスターしたいよ」

「あはは、なんかチアキらしいね。それなら私と一緒に料理、勉強すればいいんじゃない?」

「いいのか?」

「うん、お肉の処理は私がすればいいし」

「それだと、俺が料理をマスターしたって言えなくないか?」

「もう、細かい事はいいじゃない。2人で楽しく料理しようよ」

ケラケラと明るく笑う彼女の提案した解決策は、後日採用された。
2人で作ったチキンのミートローフは、すごく美味しかった。